絶好調男 五十嵐誠がシーズン2勝目の快挙
恒例となった桧原湖戦。今年は初夏に開催された。スモールマウスがワカサギを追ってディープに大挙するかどうかの微妙な季節。真夏の蝉・虫パターンにもちょっと早いというタイミング。ディープかシャローか選手を大いに悩ませた。総重量制導入に伴いラージマウス狙いも白熱化。2キロフィッシュも数本持ち込まれ会場が沸いた。例年より数は釣れない感じだったが、スモールマウスのみで4キロ超えが続出するなどの盛り上がりをみせた。シャローvsディープの争いは前者に軍配があがった。そんな中スモールマウスの圧倒的経験値をもつ五十嵐誠がシャローで多彩な釣りを展開し桧原湖初の12キロ超えで1シーズン2勝目の偉業を達成した。
プリプラ~寒かった2日間の公式プラクティス
2週間前までのプリプラクティス期間はスポーニング期終盤だった。ゲリラ豪雨に遭遇することもあったが、比較的温かい日が多かったため、数はイージーに釣れる状況だった。オフリミット期間は梅雨空で気温も低めの日が続き水温も20度前後を行ったり来たり。
そして迎えた公式プラクティス。2日間とも曇りベースの寒い日だった。朝の水温は19度台。晴れて暑くなると虫やエビが湧き小バスも含め活気づくショアラインだが、あまりの寒さに沈黙していた。一方、ディープのほうもワカサギの群れが映し出されるポイントがいくつかあるものの、例年のような「サイズはともかくリミットメイクは簡単」という感じには程遠かった。
地元筋の話によれば
- 今年は6月に天気が悪かったのでウィードの生育が遅い。例年であれば、アフタースポーンの個体が一旦ミドルレンジのウィード+エビに留まるが、今年はそれをスルーしディープに落ちてる。
- ワカサギの放流量が極めて多く、エビ食いバスよりもワカサギ付きバスが圧倒的に増えた。エビは大移動しないので、狙いやすいが、ワカサギは足が速いのでポイントを絞りづらい
という話だった。
今年から総重量制なのでラージマウス狙いも有効となる。スモールマウスが大型化したとはいえ、この時期に2キロクラスを狙えるのはラージマウスのほう。2キロといえば良型スモールマウス3本分に相当する。去年の馬淵利治による6325gというスーパーハイウエイトが示すように、その破壊力は計り知れない。理想はスモールマウスで3キロのベースを作ってから、キロ~1500クラスのラージマウスで入れ替え。だが、今年は「短時間でリミットメイク」自体簡単ではないようだった。
Day1 今江克隆と青木大介がラージマウスを混ぜ5キロオーバー!
予報どおり大会期間中は「快晴」だった。山の天気は変わりやすく、3日間同じ天気というのは珍しいが、今大会は見事に3日間とも晴れ・弱風という天気だった。最高気温も25度近くまで上昇し、前日プラの寒さから一転、避暑地はどこへやら?真夏のような3日間だった。
今回は諸事情により取材艇を出せなかったため、湖畔道路から見るしかなかったが湖の北半分にボートが多かった。とはいえ、早稲沢沖と大川沖以外は目立った人気ポイントはなく、本当に60艇浮いているの?という閑散とした湖上だった。
初日トップは今江克隆。桧原湖において4キロは他の湖の5キロに相当するハイウエイトだが、それをも上回る5525gをウエイイン。時期的に痩せてはいるものの巨大なラージ2本をサイトで仕留め会場を大いに沸かせた。
2位は青木大介。スモール4本、ラージ1本で5キロ超え。メインパターンは早稲沢沖ディープフラットでのスモールマウス狙いだが、最後に大川シャローで勝負に出て見事2キロ超えのラージマウスをテキサスリグで釣り上げた。このラージで今回のビッグフィッシュ賞も獲得した(2126g)。
3位は五十嵐誠で4595g(同選手の詳細はページ下部に記載)
以上3名はラージマウス+スモールマウスのいわゆる「ミックスバッグ」での結果。
特筆すべきは4位の小林知寛。スモールマウスのみで4160gを持ち込んだ。おそらくだが、スモールマウス5本でのJB記録だ。去年の野尻湖戦とおなじく、ワンスポットで虫パターンとライトキャロライナで釣ったそう。フットボールの釣りでもグッドサイズが入り脅威の4キロ超え。釣りビジョンカメラが同船しているので詳細はそちらで。
5位の北大祐がラージを1本混ぜ4110gと、上位5名が4キロを超えるという驚異的ハイウエイトな初日だった。3500g×3日間がお立ち台ラインと思っていた記者には異次元のウエイトだった。
Day2 市村直之が4360gのスーパーウエイトを達成!
2日目も初日と同じような天気。朝イチはほぼ無風。10時頃から西よりの風が吹くものの、人気の早稲沢沖まで風が回ってこず、快晴・微風のディープフラット組には厳しい感じが続いていた。初日にディープフラットで玉砕した選手はシャローに活路を求めたようで、早稲沢船団は少し減り、大川沖はガラガラになっていた。
ディープからシャローに転向しもっとも成功したのが市村直之。ゲーリーレッグワームのノーシンカーをシャローに落とす「落ちる虫?エビ?」パターンを発見。10数本釣り最終ウエイトを4360gとし、小林のスモールマウス記録をあっさり塗り替えた(翌日更に更新した)。
単日2位はSHINGO。南エリアで見えバスに対し3インチイモグラブとSHINGOスクリューをキャストしキロアップ、800クラスを2本混ぜ3975g。
3位は西川慧。大川シャローのチャンネル周りをうろつくバスを半サイトで狙い3950gを持ち込んだ。
初日トップの今江克隆はラージ勝負に出たものの結果は得られず単日22位。青木大介はスタート前に「ラージ勝負よりも、まずはスモールでリミット」と言っていたが、初日と風向きが違い苦戦を強いられ単日29位だった。
ディープが不調で全体的にはリミットメイクが67%まで落ち込んだ。ウエイトもディープフラットでは700g×5=3500gがマックス値か?。
一方、800~キロチョイのスモールマウスが潜むシャロー狙いに移行した選手がウエイトを伸ばし3800釣っても5位というハイレベル過ぎる2日目だった。
予選結果 今江克隆が411g差で青木大介をリード
ポイント順での予選結果は1位西川慧 2位北大祐 3位SHINGO 4位 五十嵐誠 5位 秋葉紀幸という顔ぶれ。そして、実質順位となるウエイト制では1位 今江克隆 2位青木大介 3位五十嵐誠 4位北大祐 5位西川慧と並びがガラリと変わる。これが総重量制の面白さ。一発勝負にでる選手が有利になる。
Day3 市村直之が4532gで記録更新
2日目の釣りに更に磨きをかけた市村直之は最終日に25本くらいは釣ったという。入れ替えに入れ替えを重ね最終ウエイトはスモールマウスのみで4532gまで達した。時期が違えば余裕の6キロ超えではないだろうか。山岡計文と秋葉紀幸もスモールのみで4キロ超えの快挙。
Result 五十嵐誠がシーズン2勝目を達成
総合5位は11449gの今江克隆。
2日目3062g、3日目2862gとスコアを落としたものの初日の貯金が効いて5位に留まった。
3日目はラージ狙いを見切り、守りに入ったそうなので、本人も納得の5位ではないだろうか。
総合4位は11474gの西川慧。
3790g、3950g、3734gとハイレベルなアベレージで嬉しいトップ50初お立ち台。
総合3位は11652gの青木大介。
唯一のディープフラット組からのお立ち台。初日のラージキッカーが効いて総合3位。年間ランキングも5位から2位にジャンプアップ。
総合2位は11706gの秋葉紀幸。
山を一つ越えた山形県在住の同選手、桧原湖はホームレイクだ。去年の野尻湖戦でも4位入賞しておりスモールマウスには強い。初日3576g、2日目3872gと高スコアをキープし、最終日には4258gで大きくジャンプアップした。なお、2位の秋葉と5位の今江のウエイト差は僅か257gしかない。これが桧原湖戦の恐ろしさ。
第2戦北浦でトップ50初優勝し、第3戦でも予選を4位通過し、あわや2連勝からの総合3位だったノリノリの五十嵐誠。その勢いは留まることを知らず今大会も12071gで優勝。2006年の江口俊介に続き2人目の1シーズン2勝目の偉業を成し遂げた。
記者は同選手と釣りをする機会がある故に言えるが、今回は勝つべくして勝ったと思う。その理由は大きく別けて3つある。それは後で書くとして、まずは本人へのインタビューから得た前プラからの本戦3日間の流れを書いてみる。
公式プラ初日 ラージを探して湖半周
狐鷹森からボートをおろし、湖の北側半分全域をエレキで流した。目的はラージマウスを探すこと。ただし、探すだけでは暇なので、プリプラでも有効だったシャッドのドラッギングをしながらボートを流した。結果、キロ前後~55cmクラスのラージマウスを5本発見することができた。そして、シャッドのドラッギングでは600、700、800gクラスがよく釣れた。ただし、エリアによってサイズにバラつきがあった。更に、シャローに見えるスモールマウスが多いエリアではシャッドでもよく釣れた。フラットよりも急深なバンクのほうが確実に釣れた。シャッドでは数えきれないほど数が釣れた。
公式プラ2日目 キーとなったラージのたまり場発見
シャッドの釣りはほどほどに、この日もラージマウスを探しまわった。結果、糠塚島裏のシャローブッシュでキロクラスが5匹溜まっているスポットを発見した。本番で天気が180度変わることについては、さほど気にしなかったそうだ。また、ラージ狙いは深入りせず、本番初日の朝に軽く試してダメそうなら早々に見切るつもりでいたそうだ。
なお、大会前日の夕方「今回ばっかりはスモールやっててよかった~」とかなり自信ありそうだった。
大会初日 ラージのサイト+シャッドドラッギングで4500g
他にもラージ狙いの選手は居るのでフライト順が運命を左右した。引いたクジは27番で良くない順番。だが、先行するボートを見ていると、糠塚島裏に行くボートが無かった。ということで前日に見つけた5匹固まっているスポットへ難なく入ることができた。なお、55cmを狙いに行くことも頭をよぎったが、初日の朝イチからミスしたくはないので、まずは手堅くキロフィッシュを狙いに行った。結果、開始直後に得意のネコリグで800クラスのラージをキャッチし、大いにリラックスできた。その流れで初日前半はラージ狙いに徹した。
2本目は狐鷹森のアシにいたラージ。一回ラインブレイクしたものの、再びアシの中に戻っていったのを見逃さず、もう一度口を使わせた(驚)。ネストのバスではないそうだが、そんなことが起こるとはさすがに勝つ人は違うと思わせるエピソードだ。この2本目も800クラスだった。
後半は馬の首エリアでスモールマウス狙い。プラクティス通りにシャッドをドラッギングしつつのサイトフィッシングを展開。結果、シャッドが大爆発し15匹ほどキャッチ。サイズも想定外によく800~1キロクラスが混じりトータルウエイトを4595gとし初日3位。
大会2日目 初日の釣りが完全不発で失速
2日目もラージ狙いから開始するが、どこも不発だった。ラージ狙いは見切りバックアップのシャッドの釣りにシフト。しかし、釣れども釣れどもマックス500gでピンチに陥る。
シャローブッシュのサイトにシフトし、なんとか800gと700gのスモールマウスをキャッチ。シャッドの釣りでもなんとか550~600gが釣れるようになり、3448gを検量した。単日11位とスコアを落としたが、上の2名は更にウエイトダウンしており、暫定3位をキープできた。
大会3日目 最後に見つけたウィードパターン
暫定トップ今江克隆との差は500gチョイ。逆転優勝が無理ではない値。勝負に出ずに負けるのは悔いが残る。ということで朝イチはラージ狙いで勝負に出た。結果、開始早々キロアップをキャッチし雄叫びを上げる。これは「キテル!」。4キロ釣れば勝てると思っていたので、残り4匹を700gで揃えるべくガムシャラに頑張った。ネコリグのサイトとシャッドのドラッギングで早い段階でリミットメイクするも700gが1本入っただけで残りは350~450g・・・
シャッドの釣りはマックス600gの予感。9時過ぎの時点での予想ウエイトは1000+700+(300台×3)。正確には測っていないため、3キロあるかないかのウエイト。
やっぱり勝ちたい。その一心で10時から再びラージ狙いの勝負に出た。結果、狙い通りラージマウスをキャッチするもまさかの550g。
視界には西川慧がデカイのを釣ったシーンが入った。「負けられない!」。この日、今江克隆・青木大介は沖に浮いていたため勝負に出てないと思った。逆に怖いのは終始シャローに浮いていた秋葉紀幸・西川慧、市村直之だったそう。
馬の鼻エリアに移動し、あることに気づいた。この3日間徐々に減水しているうえ、晴れで気温が急上昇したため、ウィードが急激に伸びていることに気づいた。そして、グッドサイズがウィードの上に浮いているのを発見。すかさず得意のネコリグを投げるもバスに嫌われた。ならばと、イモラバ(イモグラブのラバー刺し)をキャストすると、沈むワームとともにバスも急降下。見事にラインが走って土壇場で食わせ方を発見。
そこから、似たようなウィードを周り同じパターンで2本追加。測ってはいないが、ウィードで釣った3本は全て700~800g。
4キロで優勝と思っていたが、現在の推定ウエイトは1000+550のラージ+700くらいのスモールマウス3本、なんとなく「3700」くらいと想像し検量へ向かった。
結果、公式ウエイトは4028g。トータルウエイト12071gで優勝となった。
まとめると1日目ラージのサイト+シャッド、2日目 ネコリグによるブッシュ狙いサイト、3日目 ウィード周りのイモラバ、という風にスモールマウスのサイトをベースとしつつも狙いどころを毎日変えているのが解る。
ここで冒頭に書いた「勝つべくして勝った3つの理由」に戻る。
1.誰よりもスモールマウスを釣っている
2.ラージのサイトも上手い
3.勢いに乗っている
1について。この10年というスパンで言うならば、小森嗣彦が上かもしれない。だが、この数年でいえば、野尻湖でフルタイムガイドを行っている五十嵐誠はトップ50メンバーの中で圧倒的にスモールマウス釣りの経験値が高い。また、ハイプレッシャーな野尻湖で日々鍛えられているため、トーナメントという非常事態下での桧原湖スモールにも上手く対応出来ていると思う。シャッドのドラッギングも去年の桧原湖戦で開眼し、野尻湖のガイドでも多用しているらしい。
このずば抜けた経験値は魚の動きに対して有効であるのは当然として、もう一つ大きなアドバンテージがある。それは「完璧なタックルバランス」だ。五十嵐誠は他の選手に比べタックルが少ない。大会中でも6本ほどしか積まない。それは全会場同じ。もちろん普段のガイドでも同じタックルを使っている。ロッド+リール、ライン、フック、ワーム、全てが「毎日使って毎日魚を釣りまくっている」仕事道具。つまり、何がいいたいかというと「ミスが無い」事である。知り尽くした、というより身体に染み込んだタックルバランス故にミスが無い。今大会、30本以上掛けてミスしたのは2日目のラインブレイクしたラージ1本(後に釣り返した)だそうだ。いや、そうは言ってもシャッドのドラッギングで10番のトレブルフックでは不可抗力でバレることもあるだろうと何度も問い正したが「1匹もバラしてません」と言っていた。
スモールマウス特有のボートっぺりでの諦めの悪さ。ラージ慣れしてる殆どのアングラーには厄介なファイトだ。だが、毎日スモールマウスを釣っている五十嵐にとっては、なんてことないやりとり。3日目に同船したロドリ記者も「見ていて安心できるファイト」とツィートしていた。ヒット後の魚の動きとタックルの限界を知っているゆえに、取り込みはかなり早いしミスも無い。3日間でミスが1回。この事実が全てを物語っている。
2について。五十嵐世代の選手の多くがそうであるように、ヒューマン生時代に河口湖で鍛えたサイトフィッシング能力はかなり高い。バスを見つける能力、食わせる能力、ボート操船、などなど一朝一夕で築きあげられるものではない。また、ラージのサイト以外でも、普段から野尻湖で釣りをしてるだけあって、スモールマウスのサイトも軍を抜いて上手い。
3は言わずもがな。トーナメント選手には「ノリノリの時期」がある。短くて1年、長くて3年。まれに今江克隆のように20年以上最前線で活躍する選手も存在するが極めてレアケース。もともとクラシックウィナー・バスアングラーオブザイヤーとビッグタイトルは持っていたが2014年までトップ50の優勝経験は無かった。それが第2戦優勝から現在まで快進撃が続いている。今一番ノッているのは間違い無い。最終戦を前に年間ポイントは2位の青木大介に28点差。グランドスラム達成は目前だ。
そんな最終戦はがまかつCUPとして9月18日~20日霞ヶ浦で開催される。
メディア同船情報(実際にリリースされるかはわかりません)
- 月刊Basser 泉和磨の1日目・秋葉紀幸の3日目
- つり人社DVD 青木大介に3日間
- 月刊ルアーマガジン 鈴木隆之の予選(7月末売号)・西川慧の決勝(8月末売予定)
- ルアーマガジンDVD黒帯リアルファイト 今江克隆に3日間
- 月刊ロッド&リール 河辺裕和の2日目・五十嵐誠の3日目・河辺裕和のウィニングパターン検証
- 釣りビジョン 小林知寛・三原直之の予選 北大祐の3日目
- 小森嗣彦に動画カメラ3日間(リリース方法は未定)
写真:NBCNEWS・オブザーバーの皆様
レポート:NBCNEWS H.Togashi