JBトップ50 第3戦 東レ・ソラロームCUP 07月18日(金)~07月20日() 長野県 野尻湖

ストーリー

遂にお立ち台のテッペンへ
小林知寛がコバチュウの蛾パターンで初夏の野尻湖戦を制す

2014年7月18日~19日長野県野尻湖でJBトップ50シリーズ第3戦東レソラロームCUPが開催された。季節は初夏。手堅いディープフラットか、リスキーな虫パターンか。大多数がディープフラットで苦戦する中、意外にノーマークだった虫パターンが炸裂。終わってみれば3日間で14キロを超えた上位3名は虫パターンだった。最終日に5キロ前後のハイウエイトが出た激戦を制したのは"コバ"こと小林知寛。いつも寸止めの同選手が遂に一皮向けて優勝カップを手中に収めた。

野尻湖戦のおさらい

2004年から2008年まで夏の野尻湖でトップ50シリーズが開催され続け「虫パターン」が全国区となった。当時は市販化されたソフトボディーの「虫系」ルアーは無く、各プロが独自の「○○虫」「○○ゼミ」を自作しシークレット化していた。その後、各メーカーから製品版がリリースされ、夏の野尻湖の定番となり、今ではラージ狙いでも多用される全国区ルアージャンルになった。

また、当時は極めて珍しかった野尻湖ガイドメンバーの増加、マスターズ戦の定期的開催などから「釣れるディープのエリア・地形・スポット」「虫に出るピンスポット」の解明も急速に進んだ。新世代GPS魚探・極細ティップのロッド・超ファインワイヤーのフック・極細PEラインの普及などもあり、ハードウエア・ソフトウエアともに6年前とは比較にならないほど充実している。

季節的には「虫パターン」もありだが、あまりにも定番化されたために、以前のように簡単に騙される魚は少なくなった上、一般アングラーとのバッティングも多いため大会の戦略に組み込むのは危険と思われた。

一方、もう一つの定番であるディープフラットは、確実に魚影が濃いものの、船団の中での強い精神力が問われる事となる。時間帯・風や日差しの気象条件に左右されることが多いのは当然のことだが、野尻湖のスモールマウスは極めてセレクティブかつ気まぐれな一面をもち、隣イレグイ、こっちノーバイトということもザラに起こる。また、限界ギリギリのライトなタックルであるため、バラシやラインブレイクのミスも起こりがち。「壊れない」メンタルが必要とされる湖だ。

プリプラ~直前プラ

今年の野尻湖の一大トピックは「蛾(マイマイガ)の大量発生」だ。10年に2~3年起こるらしい。プリプラ期間中はその幼虫である毛虫が異常発生。木から落ちた大量の毛虫が湖面の潮目を覆っていた。オーバーハングに近寄るのはかなりの勇気が必要な感じだった。沖のディープで釣りをしてても風に運ばれて飛んできたという話も。そんな毛虫達がオフィリミット期間中に羽化し、今度は蛾の異常発生になった。

記者は大会前日木曜日に湖上へ浮いてみた。梅雨まっただ中の曇天無風。セミはヒグラシがたまに鳴いていたが、多くは無い。他の甲虫類もあまり見かけなかった。そんな中、湖面を賑わしていたのがマイマイガである。

バスが蛾を好んで食べるという話はあまり聞かないものの、実際に良いサイズのスモールマウスが水面を割って蛾を捕食するシーンに何度か出くわしたし、蛾が多い木の周りは魚影が濃かった。結果的に今大会の鍵を握ったのはこの「マイマイガ」だった。プリプラ期間はそれほどでもなかったシャローの虫パターン(正確には蛾パターン)が効果的になっていた。

一方のディープフラットは琵琶島周辺に30艇近く浮いていることもあり、大会中も大船団ができそうであった。

シャローの虫パターンそしてディープフラットでも800~キロアップの魚が釣れておりハイウエイト戦が予想された。

記者の感覚では初日・2日めは5キロが1~2名、4500が数名。4500を2日間+最終日3キロ後半で優勝、という印象だった。

予選初日

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曇り空のもと7時過ぎにフライトが始まった。野尻湖ルールでボートの釣りは7時からと決まっている。日の出が早いこの時期はスタートから1~2時間が最初の勝負どころになる日が多い。この日もそれに当てはまり、オブザーバー写真を時系列に並べると、各選手7時~8時台のヒットが他の時間を圧倒していた。

記者が取材艇で湖上に出たのがお昼前。この頃にはすっかり朝の時合は終わっていた。島周りの大船団組も我慢の時間を強いられていた。島周りが一番人気、西岸ディープフラットにポツポツ、カトリック前と菅川沖に数艇。残りはシャローでの虫パターンを行っていた。

ディープの釣りは風の強さ・向きがキーになることが多いが、この日は終日弱風だった。

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初日トップは小林知寛で唯一の5キロ超え。砂間ケ崎周辺の虫パターンで朝の30分でリミットメイク。20本近くのバスを仕留め、最終ウエイトを5180gとした。

2位は4785gの山村道祐。こちらも虫パターン、というより「蛾パターン」。オーバーハングのチョウチン釣りで見事に蛾のパタパタを再現していた。

3位は沢村幸弘で4740g。同選手も虫パターンでの釣果。

終日曇天弱風で、セミ・虫パターンが強烈に効くとは思えなかったが「蛾食いバス」には関係ないようだ。

ディープフラット組で上位に食い込んだのは前山智孝(正確にはディープハンプ)・野村俊介・小野俊郎・SHINGO。4キロ前半のウエイトでシングル入りした。

全体的には検量率が96%、59%がリミットメイク、3キロ台はただの人、4キロが上入賞に必要なウエイトだった。

予選2日め

気温は前日と変わらず20度前後をキープ。水温も24度前後で安定。天候は不安定で曇りベースながら小雨~本降り・晴れ間・濃霧と山間部らしい天気だった。

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強風になると虫パターンの釣りがやりにくくなり、ディープの釣りがよくなるケースが多い。しかし、今大会は三日間続けて強風になることはなく、天も虫パターンに味方していたように思う。

2日めトップは福島健。自作の虫系ルアーで各地をランガンしこの日唯一の5キロ超えを達成。2位は秋葉紀幸。今年から参戦のルーキーだが桧原湖をホームレイクとしておりスモールのツボは押さえている。こちらも、沈むワームではあるが基本はシャローの虫パターンで4845g。

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2日めは上位のウエイトが大幅UP。4キロ超えが14名になった。午後の濃霧タイムにディープフラットでラッシュが起こったそうで、それが効いた。単日3位の小森嗣彦もディープフラット船団で釣り勝ち4755gをウエイインした。

虫パターン組もそれに負けないウエイトを出し加藤誠司が4位、小林知寛が5位になっている。

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2日めの検量率は100%。リミットメイクは34名の57%。
馬淵利治がラージマウス1本のみ検量。1672gあり今大会のビッグフィッシュ賞を獲得した。10インチのストレートワーム(イールクローラー10インチ)で仕留めたらしい。

予選結果

小林知寛・福島健がワンツーで並んだ。この2人は古くからの戦友だ。今風に言えば「ツレ」。ちなみに福島のほうが年上。昔から行動をともにしており、今回も宿が同室らしい。ただ、釣りの話は一切無し。優勝経験豊富な福島に対し、小林はいつも「最終日でコケる」。デビューイヤーの小野湖、2011年の旭川ダム戦、2012年の旧吉野川戦、そして今年の第2戦北浦戦。予選を1~2位で通過しながらも最終日にノーフィッシュを食らう。中立であるべきのメディア関係者、そして選手達も「今度こそコバに勝って欲しい」と思う者は少なくない。北浦戦に続けてやってきた大チャンス。しかし、すぐ後ろにもっとも恐ろしい"ツレ"が迫っている。福島の強さを一番よく知っているのは小林なはずである。2人のポイント差はわずか4点。

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暫定3位は沢村幸弘。テクニカルな釣りになると恐ろしいほど釣ってくる。今大会も、そのパターンに気づきながらも虫パターンに手を出さなかった選手は多い。なぜなら、簡単には釣れないから。それほどまでにスモールマウスの、いや野尻湖スモールの虫パターンは特殊技術を必要とする。特に優勝に絡むビッグサイズを狙うには。そんなハイレベルな虫パターンをなんなくこなし3位通過。

4位は沈める虫パータンをメインにディープの釣りも織り交ぜた秋葉紀幸。ノーマークに近かった水中島をメインにディープのバスを釣った前山智孝が5位で予選を通過した。

前山選手も前出の小林同様「ミスターあと一歩」のひとりで「6位の前ちゃん」と呼ばれている。2005年にトップ50デビューし総合6位が5回。お立ち台にあと一歩届かない。ちなみに2008年は年間ランキングも6位だった。6度目の正直になるか?

決勝日

雨予報だったが、結果的には晴れの微風ベースだった3日め。晴れが「蛾」に及ぼす影響はわからないが、甲虫類・セミの活性を上げるのは間違いなく虫パターン勢にプラスとなった。ただし、連休中日と重なりバッティングが懸念された。

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一方のディープ組は、梅雨の晴れ間と弱い風に苦戦を強いられることになった。

この日はスタート直後から取材艇をだし、小林知寛を見にいった。到着前に既に3本キープしてるのがツィッターで解っていたが、記者の目の前で4本目をキャッチした。朝の8時で4本目。かなりのハイペースだ。

小林の沖側には前山智孝が浮いていた。昨日までは朝の8時前にグッドサイズのラッシュが起こったが、今日はサイズダウンしてると嘆いていた。

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ワンストレッチを往復している小林に対し、福島健と沢村幸弘は全域ランガンの虫パターンを行っている。福島はいつも通りポーカーフェイスでマシンのように釣りをしている。動作の美しさ・無駄の無さはいつ見ても素晴らしい。取材艇の前で釣ることは無かったがツィッターによれば、着実に数を重ねていた。

暫定3位の沢村幸弘を湖上で探すことはできなかった。ツィッターによれば11時までで2本(最終日の湖上中継は11時でストップ)。バッティングが多いという書き込みがあったので、失速したかに思われた。

島周りディープ組は明らかに釣れている感じは無かった。さすがに晴れ・無風、お昼前という条件はキツそうだった。

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ウエイトはわからないが小林・福島ともに入れ替えは行っているらしい。果たしてツレ同士の対決はいかに?

ラージマウスの大会では3日めは大幅にウエイトダウンする。しかしスモールマウス戦はそれが比較的少ない。しかし、今大会は別格に凄かった。暫定トップの小林知寛が4885gで完勝と思われたが、暫定2位のツレが脅威の5,155g! 更に更に暫定3位の沢村幸弘が5385gというスーパーウエイトを出した。暫定トップ3名の壮絶な殴り合いとも言えるビッグウエイト続出に会場も大いに沸いた。

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もしも小林のウエイトがもう少し低く、なおかつディープフラット組が爆発した場合、間に数名割り込んで逆転負けしたかもしれない。しかし、やはりディープのウエイトは虫パターンを上回ることは無かった。トップ2名の5キロ超えは素晴らしいが、小林の4885gもじゅうぶん凄く、間に割り込めるものは居なかった。

Result

終わってみれば虫パターンの圧勝だった。

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悲願の初優勝を遂にものにした小林知寛は砂間ケ崎周辺でじっくり腰を据えて虫パターンを行った。ランガンでフレッシュな個体を狙うのも一つの戦略ではあるが、風向きやバッティングなどで思い通りに行かないリスクはある。小林の場合は、3日間ほぼ同じ場所で毎日たくさんのバスをキャッチした。

なお、予選2日間はほとんど曇天・雨の天気だった。今までの常識であれば、虫パターンは晴れが良いとされていたがそれを覆す結果になった。その理由は2つあった。一つ目はメインベイトがセミ・甲虫類ではなくマイマイガだったこと。蛾も晴れのほうが数は多いそうだが、セミ・虫よりは曇天でも関係なく舞っていた。もう一つは小林が狙っていたエリアには沖の表層に浮くワカサギを捕食してる群れも小林の射程距離に入ってきたことである。ワカサギ付きバスは曇天のほうが浮きやすい傾向にあるため、小林のエリアには次々とフレッシュな個体が入ってきた。

後日談として、大会終了後の月曜日以降、マイマイガは激減したそうである。大会前の大潮の時が羽化のピークで、大会中が最後の羽化~湖上ポトリなタイミングだったようだ。あと数日開催が遅ければマイマイガパターンは沈黙していたかもしれない。

小林が使ったルアーはセミ型プラグを改造した「コバチュウ」。6年前から存在していたらしいこの改造ルアー、見た目はアレだが、とてもよく考えられていた。フックは細軸トレブル6番が1個のみ。掛けてからのバラシはほとんど無いというから驚きだ。完璧なタックルバランスなのだろう。バサー誌記者が2日間同船したので詳細はそちらで。

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総合2位は福島健。初日は4キロジャスト。2日め3日めはともに脅威の5キロ超え。小林と違い、こちらはランガン派。2011年秋のクラシック野尻湖戦でもシャローランガンで初日トップ。福島に目を付けられたら天才野尻湖バスもイチコロだ。記者が驚いたのは、ボートポジションが岸に近いこと。あの近さでビッグフィッシュがバンバン食べに来るという事実に驚愕した。福島は「ルアーに魅力があるからあの距離でも食うんです」と涼しい顔で言っていた。最終日には巨大なラージマウスをミスるという場面もあったらしい。そんな最終日はロッド&リール記者が同船したので詳細はそちらで。

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総合3位は沢村幸弘。世代交代が囁かれる中、たびたび見せ場を作ってくれる大ベテラン選手だ。同選手もメインは虫系パターン。福島健と同じく湖全体をランガンした。最終日は残り2時間を切った段階で2本のみだった。虫への反応が悪くなり、心が折れかけたそう。しかし、沢村の視界に現れた福島が自分と似たような釣りでグッドサイズを釣ってるシーンに遭遇。それに勇気をもらい虫パターンを続行。そこから怒涛の快進撃でその福島を上回る5385gを釣り上げた。最終日にして最高ウエイトという見せ場を作った。

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総合4位は秋葉紀幸。沈むワームではあるものの、こちらも基本はシャローの虫パターンがメイン。バックアップでキャロライナリグを投入。桧原湖ホームだけありスモールの釣りに長けている次戦も要注意だ。

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総合5位は前山智孝。船団となった島周りではなく、ノーマークに近かった水中島をメインとした。ワカサギについてディープを回遊するバスをダウンショットメインで攻略。最終日は3キロチョイとウエイトを落としたものの、周りが更に釣れてないために、悲願のお立ち台をゲット。万年6位の汚名を返上した。
ちなみに、予選上位5名がそのまま全員お立ち台というのもかなりレアである。

6年ぶりの夏の野尻湖戦。前出のとおり、当時とはタックルの進化や情報の流通量が桁違いだ。そんな中、定番とされる虫パターンに勝機はあるのか、ディープフラットで他を出し抜く新たな技は生まれるのか、とても興味深かった。結果、セミ・虫ならぬ「蛾パターン」という2014年ならではの釣り方が生まれた。数年前は「○○虫」が流行ったが、今度は「○○ガ」が製品化されるのだろうか。

年間ポイントランキング

第2戦までの暫定トップの横山が47位で戦線離脱。

今大会の優勝で小林知寛が暫定トップに。同選手は2年前のアングラーオブザイヤーも野尻湖で獲得した。彼にとっては縁起のいい湖だ。

2位はコバのツレ、福島健。ポイント差は5点。3位は青木大介、4位前山智孝。

暫定2位だった市村直之は苦手な野尻湖で踏ん張りきれず28位となってしまったが暫定5位で踏みとどまった。暫定ポイントランキング

暫定上位4名のポイント差は僅差。残りは2戦。第4戦エバーグリーンCUPは福島県桧原湖で8月29日~31日に開催される。

写真:オブザーバー・NBCNEWS
レポート:NBCNEWS H.Togashi

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