エバーグリーンCUP

JBトップ50第3戦エバーグリーンCUPストーリー

2025年 07/18 (金) ~07/20 () 福岡県 遠賀川

帰ってきた青木大介──勝負を決めたギーラカンス“おさかなセッティング”の衝撃

6年ぶりに開催された7月の遠賀川戦。水の動きに敏感な魚たちと、数十センチ四方の沈みモノまで把握し尽くす現代トーナメント戦士たち。
誰もが知る場所で、どう攻略するか。勝負を分けたのは“ルアーの差”だった。

王者・青木大介。アメリカ挑戦を経てトップ50へ帰還し、かつての勘を取り戻すべく、マスターズ・ローカルJBでの経験を糧に再起を図ってきた。その手に握られていたのは、ギーラカンス“おさかなセッティング”。わずかな差を結果へと変えるための武器だった。

変わりゆく遠賀川、変わりゆく時代。場所では勝てないいま、勝利を手繰り寄せたのは、経験と直感、そして信じ抜いた1本のフリーリグだった。

【DAY1】“厳しい”は本当だったのか?水動きを求めた選手たちの選択

戦前、選手たちの口から聞かれたのは「厳しい」「1本がとても大事」といった弱気なコメント。
だが、それがそのまま結果に表れるとは限らない──それは、トーナメントの世界では“あるある”だ。事実、初日は31人が検量し、上位陣はしっかりとウェイトを揃えてきた。

梅雨明け宣言は出たものの、遠賀川の空は不安定で、大会前夜の木曜日にはまとまった雨が降った。

雨上がりの曇天下で初日スタート
雨上がりの曇天下で初日スタート
大会初日も曇天〜雨が続き、最高気温は30℃にわずかに届かず。真夏の猛暑は回避できたとはいえ、雨に濡れながらの過酷な試合となった。

ただし、戦前の予想に反して比較的多くのバスがウェイインされた背景には、この雨や流れの影響で一時的にバスの活性が上がった可能性もある。
気圧やカレント変化が川バスの行動に影響を与えることはよくあり、実際にこの日はシャローと沖、どちらの展開でも結果を出した選手が存在した。

遠賀川の特徴は、両岸の高台からほぼ全域を俯瞰できる地形にある。初日は雨の影響で自転車ではなく車で上流〜下流をチェックしたところ、選手の過半数が上流域に集中。

上流部
上流部
FFS(フロントフェイシングソナー)を駆使して沖を探る選手と、ブッシュや護岸などのシャローカバーを撃つ選手に二極化していた。人気スポット「3号線下」エリアにも複数のボートが浮かび、下流域はがら空き状態。わずかでも水の動きがあるエリアに、釣果の期待が集まっていた。

そんな中、トップに立ったのは小林明人。

小林明人
小林明人
3本で3,996gという唯一の“ほぼ4kg台”に迫るウエイトをマークした。リミットを揃えた選手は10人しかいない状況下で、価値ある3本で50ポイントを獲得。上流域にボートを浮かべ、カバーを撃つパワーフィネスで絞り出した3本は、まさにタフな遠賀川を読み切った証だった。

2位には山岡計文(3,150g)、3位金澤俊秀(2,950g)が続き、ここまでが3000g前後のハイウエイト。4位には福島健が入った。2本ながら2,946gとビッグフィッシュ頼みのスタイルで上位に食い込んでいる。
この日、52人の選手のうち検量を終えたのは31人。リミットメイクはわずか10人にとどまり、全体の19.2%。総匹数は58匹、1匹あたりの平均ウエイトは915gとまずまずのコンディション。
ただし、21人はノーフィッシュで終わっており、明暗がくっきりと分かれるDAY1となった。

【DAY2】バイトはさらに遠く、上位入れ替えも──気まぐれな天気とバスに苦戦

大会2日目、朝は曇り空。10時頃から久しぶりの青空がのぞいたかと思えば、午後2時にはにわか雨──空模様と同様、バスの反応も読めない一日となった。
気温は30℃前後と前日と同程度ながら、晴れ間と雨が交互に訪れるコンディションが選手を翻弄した。

遠賀川では騒音対策として朝8時まではスロー走行が義務付けられている。これにより、スタート直後はスタート地点に近い最上流域に選手が集中する傾向がある。

最上流部
最上流部
上流部(鉄橋付近)
上流部(鉄橋付近)
この日も例外ではなく、多くの選手がその制約の中でスタート直後の立ち回りを工夫していた。

天候が回復傾向にあったこともあり、この日は自転車でトーナメントエリアを一周。前日と同様、人気が集中していたのは上流域と橋脚周辺のストラクチャーエリアだった。
目に見える変化と、水の動きを求める選手たちの判断は変わらなかった。

青木大介のランガンスタイルは変わらない
青木大介のランガンスタイルは変わらない

しかし、そんな中で釣果はさらに厳しさを増した。
この日、検量者は27名にとどまり、リミットメイクはわずか2名(3.8%)。
バス総数は36匹という数字からも、バイトの少なさが見て取れる。

藤原啓司
藤原啓司
この状況を切り裂いたのが藤原啓司。DAY1ではノーフィッシュに終わったものの、DAY2は3本で3,172gを持ち込み、トップスコアとなる50ポイントを獲得。堂々のジャンプアップを果たした。
2位は吉川永遠(2,874g/3本)、3位に黒田健史(1,961g/2本)が続く。いずれも複数本を揃えた貴重な選手たちだが、1本のみの選手が20名、ノーフィッシュは25名という厳しい分布が続いている。

一方で、初日1位だった小林明人と2位の山岡計文はともにノーフィッシュ。トーナメントの難しさを物語るように、上位陣が一転して失速する波乱の展開となった。

【予選結果】福島建がトップ通過

福島建
福島建がトップ通過

2日間の予選を終え、決勝進出となる上位30名が出揃った。
トップ通過は、2日間とも安定したウエイトをまとめた福島健(4,468g/191pt)。

スモラバの一点シェイクをする福島建
スモラバの一点シェイクをする福島建
福島は水中に沈んだウッドカバーの表層付近にC4ジグ(スモラバ)を吊るし、一点シェイクで誘うという独自のメソッドを用いてバイトを引き出していた。本人いわく「一日のうち99.99%は“無”の時間」であり、「その中で一度だけ訪れるかもしれない微かなバイトを、反射神経で掛ける」スタイル。極限まで研ぎ澄まされた集中力が、予選トップという結果に結びついた。

ルーキー金澤匡秀が予選2位通過
ルーキー金澤匡秀が予選2位通過

2位の金澤重宏、3位の宮嶋駿介、4位の江尻悠真までが4000g超えで予選を終え、抜け出した格好だ。一方、初日トップの小林明人は2日目ノーフィッシュながら5位で決勝進出を決めた。
また、藤原啓司(初日28位→9位)や吉川永遠(同38位→14位)など、下位からのジャンプアップも光った。

30位通過ラインは中嶋美直の916g/108pt。DAY1ゼロからの逆転滑り込みとなり、わずか数ポイント差で涙をのんだ選手も多数。改めて、遠賀川における1本・1gの価値を突きつけられる予選2日間となった。

注目すべきは、1位から7位までの差がわずか1,084gという事実。遠賀川では2kg前後のビッグフィッシュが毎日複数本持ち込まれており、逆転優勝の可能性は誰にでもある状況だ。この接戦のなか、誰が最後に仕掛けるのか──最終日にふさわしいドラマが待っている。

【DAY3】1本が明暗を分けた決勝。最終日トップは五十嵐誠!

青空の最終日
青空の最終日

迎えた決勝DAY。予選を勝ち抜いた30名は、予選より2時間早い13時帰着という時短スケジュールの中で勝負に挑んだ。
朝から快晴。気温は35℃近くまで上昇したが、幸いにも強めの風が吹いたことで、体感的な過酷さはやや緩和された。

青木大介の最終日にはBasser誌記者が同船
青木大介の最終日にはBasser誌記者が同船

現地を自転車で一周したところ、30艇に絞られた影響で下流域はほぼ無人に。

この日2キロオーバーを持ち込んだ藤田夏輝
この日2キロオーバーを持ち込んだ藤田夏輝
人気が集中していたのは、やはり上流域、橋脚まわり、そして護岸に点在するカバー。DAY1〜DAY2と同様のエリア傾向が最終日まで続いた。

この日、最も重いウエイトを持ち込んだのは五十嵐誠。

単日トップは五十嵐誠
単日トップは五十嵐誠
2本で2,486gを絞り出し、決勝日の単日トップに立った。予選順位から大きくジャンプアップし、最終成績にも影響を与える価値ある釣果となった。

2位は加木屋守(2,334g/2本)、3位青木大介(2,250g)、4位藤田夏輝(2,172g)と、わずかな差で順位が入れ替わる混戦に。2キロ近い魚が何本も検量されており、まさに「1本で順位が大きく動く」最終日となった。

その一方で30名中、実に22名がノーフィッシュ(ゼロ申告)という厳しい結果となった。とある選手によれば「以前は400~600gクラスが豊富だったが、今はそのサイズが激減。1kg〜2kg級ばかりが残っていて、キーパーサイズ自体がいない感覚」との声も。さらに、プリプラ最終日の水温は36℃に達し、橋の下で休んでいても川を吹き抜ける風が“熱風”だったという証言もあり、バスのコンディションにも影響を及ぼしていることは間違いない。

タフコンディション、急速な魚の変化、水温の上昇、風と気温、そして13時帰着という制約──
すべてを乗り越えて魚を持ち込んだ者たちが、決勝の上位に名を連ねた。

【総合成績】王者復活!青木大介7年ぶりの優勝

3日間の合計ウエイトで争われたJBトップ50第3戦エバーグリーンCUP遠賀川。最終日にビッグウエイトを持ち込んだ青木大介が、見事逆転優勝を果たした。初日に2,922g、2日目に1,024g、そして決勝では2,250gをマーク。3日間合計6,196gでトップに立ち、2025年シーズン初勝利を飾った。

2位には、五十嵐誠(5,870g)。決勝日トップウエイトの2,486gで猛烈に追い上げたが、あと一歩届かず。
3位には藤田夏輝(5,500g)が入り、こちらもDAY1〜DAY3すべてで魚を持ち込む安定感を見せた。また、予選を上位で通過した加木屋守(5,142g/4位)や金澤匡秀(4,584g/5位)は、決勝日にも1本ずつ持ち込み、しっかりと上位をキープした。

1位 青木大介

トップ50復帰2年目。昨年は寸止めの6位で終わったが、今回は逆転で見事優勝。 「以前とは釣り方も状況もまったく違う。若手も強く、お立ち台は遠かった」と語るように、勝利は決して平坦ではなかった。

遠賀川は約8年ぶりの参戦。魚探データも何もない状態から再び地形を洗い直すところから始めたという。 「昔と比べて魚の絶対数は減っている印象。でもそのぶんサイズは大きい。場所で勝てる時代じゃなくなってる」 そう感じた青木は、地形の差ではなく“ルアーの差”で勝負する戦略に舵を切る。

プリプラでは毎日ルアーとリグを試行錯誤。その中で圧倒的な反応を見せたのが、ディスタイル・ギーラカンスの“おさかなセッティング”フリーリグだった。

ディスタイル・ギーラカンスの“おさかなセッティング”フリーリグ
ディスタイル・ギーラカンスの“おさかなセッティング(顎にシンカーをセットし縦に泳ぐようにする)”フリーリグ。

「自分が撃ったあとでも、これを入れると一撃で食ってくる」 という強い確信を得たこのリグを武器に、本戦に臨んだ。

初日はフライト順が悪く、狙いのエリアには入れず、朝イチはスロープ近くの石積みへ。ここで800gクラスを1本キャッチ。その後は最上流から下流まで広く移動しながら、空いているスポットに次々入っていくスタイルを徹底。最終的には中間大橋の有名ポイントに入り、ギーラカンスのおさかなセッティングで2本を追加し、この日トータル3本を揃えた。2日目は、上流域の護岸沿いを壁打ちしていたところで、うっすらと見えるバスを発見。サイトの準備はしていなかったが、瞬時に対応。ダウンショットのシンカーを切り落として即席のノーシンカーリグを作り、レッグワームでアプローチ。600gの貴重な1本をキャッチした。その後、帰着直前に鉄橋下のエリアに入り、キーパーギリギリの1本を追加し、この日は計2本で1,024gをまとめた。

そして最終日。移動を繰り返しながら打つも無反応が続く中、11時に鉄橋エリアへ。ここでギーラカンスのおさかなセッティングが炸裂。3連続バイトのうち2本をキープし、2,250gで逆転優勝を決めた。

優勝のキーとなったおさかなセッティングについて「本当は内緒にしたかったけど…」と語るも、この日は堂々と公表。王者の復活を印象づける勝利となった。

2位 五十嵐誠

3日間すべての魚を最上流の堰下で釣った。人気スポットゆえ常に他のボートで賑わうが、「空いたら入る」を徹底。タイミングと入り直しを繰り返しながら、狙いのスポットを押さえていった。

初日は雨が降るタイミングで、通称“タマネギ”と呼ばれるピンスポットにワッキーティーチャーのネコリグを投入。これが見事にハマり、2連発でスタートダッシュ。魚が群れで動いている可能性を感じたという。

2日目はその再現性を狙ったが、思うようにいかず苦戦。なんとか900gを1本キャッチして踏みとどまった。

最終日はフライト順に恵まれ、狙いのピンに朝イチから入ることに成功。流れが強くなっていたため、ハンディクロー5gテキサスリグに切り替え、再び2連発。決勝日トップウエイトとなる2,486gを記録し、総合2位までジャンプアップを果たした。

3位 藤田夏輝

今回は「プラクティス通りに釣れた」と振り返った藤田。テーマは“流れ”で、上流では流れが当たるカバー、下流では橋脚裏の巻き返しを見ながら、刻々と変わる状況に対応していった。

初日は3号線下流域の4〜5mに沈む、高さのある単独岩に狙いを絞った。ライブスコープで岩の隙間を確認しながら、テナガエビを捕食しているバスに対してジャッカル・ジミーシュリンプの5gダウンショットを使い、精密にアプローチ。3本をキャッチしたのち、雨が降り出して流れが強まり、流れが効くタイミングで上流のカバーへ移動。ここではジミーヘンジで1200gのキッカーを追加した。

2日目は初日の岩ポイントで粘り1本のみ。最終日はその岩も上流も反応がなく、思い切って沈み杭に狙いをシフト。1時間ほど粘っていると2匹のバスが泳いできたのを画面で確認。スモラバ+4インチグラブをI字引きし、2kg超のビッグフィッシュを仕留めて賞も獲得。技術と粘りの末に3位入賞を果たした。

4位 加木屋守

「ひとつのパターンでは戦えない」。加木屋はそう感じ、遠賀川全域で様々なリグとスポットを試していく総力戦に挑んだ。

初日は何度も入り直した中間大橋下のストラクチャーを、旧コイケのジグヘッドで攻め、ワンチャンスをモノにして1本をキャッチ。バイトはこの1回だけだった。

2日目は最上流の魚道へ。ここでは流れの中にヤミーのネコリグをドリフトで送り込み、1700gの良型をキャッチ。その後は追加なく、1本で終了。

最終日は水質が悪化していたため、水の良い場所を探して転々と移動。反応が得られないまま迎えた11時、中間大橋エリアで見えバスを発見。サイトで1本キャッチした直後、近くでエビのボイルが起きた。これをヒントに付近の存在を信じ、旧コイケのジグヘッドでさらに1本追加。直感と経験を融合させて粘り切り、4位に滑り込んだ。

5位 金澤匡秀

初日は緑橋を越えた場所にある誰もが知る岩で釣りを展開。5本をキャッチし、そのうち2本を入れ替える内容で上々の滑り出しを見せた。

2日目は朝からエリアを変えず、同じスポットで釣りを続行するが、得られたのは1300gの1本のみ。この場所には11時に時合いが来ることを把握しており、朝から“その時”を信じて粘り倒す戦術を選択した。使ったのはレインズ・スワンプスキニー6.5インチのダウンショットリグ。周囲には複数の選手が入れ替わり立ち替わり入っていたが、自分は時合いを信じて動かずに構え続けた。

3日間通すには厳しいと判断し、勝負の3日目は3号線橋脚へとシフトし貴重な1本をキャッチ。“1本の価値”がすべてを左右する今大会の中で、その1本を絞り出したことが5位入賞へとつながった。

王者、ついに復活──青木大介の帰還劇

かつて日本のバストーナメントシーンで絶対王者として君臨した青木大介。
2018年までの間に数々のタイトルを総なめにし、その後は夢の舞台であるアメリカのトーナメントに挑戦すべく海を渡った。

2019年から4年間のアメリカ遠征を終えたあと、本人は「しばらくはトーナメントから離れてゆっくり過ごそう」と思っていたという。
だが、そのタイミングで今江克隆から放たれたひと言が、彼を再びトーナメントの世界へ呼び戻す。

「すぐにJBに戻ってこい」

この言葉に背中を押された青木は、一から出直す覚悟で2023年にJBマスターズと河口湖ローカル戦にフルエントリー。
特別待遇など一切なし。参加人数も多く、強豪若手も多数いるマスターズの世界で、自らの力を試し続けた。

その結果、2023年はマスターズ年間上位に入り、2024年からJBトップ50に復帰。
それと並行して、2024〜2025年もマスターズ、河口湖ローカル戦にも出場を続けた。

「若手にケチョンケチョンにやられながらも、現代のトップ50で通用する自分でいたい」と語るその姿勢は、完全に“挑戦者”そのものだった。

そして今大会。
地形データは白紙の状態から再構築し、誰よりも多くの選択肢を持ち込み、ギーラカンスの“おさかなセッティング”フリーリグという武器を見出した。
そのルアーは、他の誰もが見落とした“残された魚”を引き出す鍵となり、青木を7年ぶりのJBトップ50優勝へ導いた。

「ベテランの領域に入ってきたが、まだまだ若者には負けられない」

そう語った青木の瞳には、再び“王者の光”が戻っていた。

次戦第4戦は9月5日~7日に福島県 桧原湖でケイテックCUPとして開催される。

レポート作成:ChatGPT
写真・構成:NBCNEWS H.Togashi

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